長野地方裁判所 昭和56年(わ)115号 判決 1983年3月24日
(長野地裁昭五六(わ)第八号、同第一一五号、有線電気通信法違反等被告事件、昭58.3.24刑事部判決、有罪・検事控訴)
主文
被告人丸山次郎を懲役二年に、被告人竹田宏を懲役一年六月に処する。
この裁判確定の日から、被告人丸山次郎に対し五年間、被告人竹田宏に対し三年間、それぞれその刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人丸山次郎は、長野県埴科郡坂城町大字坂城九、一一六番地三に事務所を設け、電気・電子機具などの製造販売を目的とする「株式会社エレクトロニクスジャパン」(以下、「エレクトロニクス社」という。)の代表取締役として、同社の業務全般を統轄掌理しているものであり、被告人竹田宏は、右「エレクトロニクス社」の営業課長として勤務し、同社製品の販売を担当していたものであるが、
第一 被告人丸山次郎は、日本電信電話公社(以下、公社という。)から架設を受けている「エレクトロニクス社」事務所の加入電話回線に、「マジックホン」と称する同回線電話(受信側の自動交換装置からその通話先電話(発信側)の自動交換装内の度数計器を作動させるために発信されるべき応答信号(以下、通信という。)を妨害する機能(以下、特殊機能という。)を有する電気機器を取り付け使用して、公社の通信を妨害するとともに公社の右度数計器作動に基づく発信側電話に対する通話料金の適正な計算課金業務を不能にさせてこれを妨害しようと企て、昭和五五年七月下旬ころから同年一一月一〇日ころまでの間、「エレクトロニクス社」事務所に設置された公社の加入電話である坂城電報電話局(〇二六八八)二局六六七二番の電話回線に、また同年九月下旬ころから同年一一月六日ころまでの間、同電報電話局二局七六六七番の電話回線に、それぞれ「マジックホン」を取り付け使用して、この両電話に他の電話(発信側)から通話の着信があつた際の通信の送出を妨げるとともに右度数計器の作動を不能にし、もつて、公社の有線電気通信を妨害するとともに、偽計を用いて公社の通話先電話(発信側)に対する通話料金課金業務を妨害し
第二 被告人両名は、共謀のうえ、前記「マジックホン」の特殊機能を客に説明宣伝してこれを販売することにより、顧客をして公社から架設を受けている加入電話回線に「マジックホン」を取り付け使用させて、前同様の方法により公社の通信を妨害するとともに右通話料金の計算課金業務を妨害することを決意させて、これを実行させようと企て、別紙一覧表(一)記載のとおり、同年二月中旬ころから同年一〇月一四日ころまでの間、顧客である重近周廣外一八名に対し、電話あるいは口頭で「マジックホン」の特殊機能を説明宣伝してその取り付け使用を勧めたうえ、「マジックホン」を売り渡し、同人らをしてその旨決意させて、同人らまたはその顧客が各設置を受けている公社の加入電話回線にそれぞれ「マジックホン」を取り付け使用させ、前同様公社の有線電気通信を妨害させるとともに、偽計を用いて公社の通話先電話(発信側)に対する通話料金課金業務を妨害させ、もつて、同人らの右各犯行を教唆し
第三 被告人両名は、共謀のうえ、顧客である榎本知弘外九名が、別紙一覧表(二)本犯の「マジックホン」取り付け使用状況欄記載のとおり、同人らまたはその顧客が各架設を受けている公社の加入電話回線にそれぞれ前記「マジックホン」を取り付け使用して、前同様公社の有線電気通信を妨害するとともに、偽計を用いて公社の通話先電話(発信側)に対する通話料金課金業務を妨害するに際して、同一覧表幇助行為欄記載のとおり、同年五月一九日ころから同年一一月一〇日ころまでの間、「マジックホン」の特殊機能を知つてその注文をして来た同人らに対し、同人らが「マジックホン」を取り付け使用して公社の通信を妨害するとともに公社の電話料金課金業務を妨害することを知りながら、その注文に応じてそれぞれ「マジックホン」を売り渡し、もつて、同人らの右各犯行を容易ならしめてこれを幇助し
たものである。
(証拠の標目)<省略>
(法令の適用)
被告人丸山の判示第一の所為はいずれも「マジックホン」を取り付けた電話回線ごとに、通信妨害の点は有線電気通信法二一条に、通話料金課金業務妨害の点は刑法二三三条、罰金等臨時措置法三条一項一号に該当するところ、右はそれぞれ一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条によりいずれも一罪として重い有線電気通信法違反の罪の刑で処断することとし、被告人両名の判示第二の別紙一覧表(一)記載1、3、4、6、7及び9ないし19の所為はいずれも通信妨害を教唆した点は刑法六〇条、六一条一項、有線電気通信法二一条に、通話料金課金業務妨害を教唆した点は刑法六〇条、六一条一項、二三三条、罰金等臨時措置法三条一項一号に該当するところ、右はそれぞれ一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条前段、一〇条によりいずれも一罪として重い有線電気通信法違反教唆の罪の刑で処断することとし、同表(一)記載2、5及び8の所為は、「マジックホン」を取り付けた電話回線ごとに、通信妨害を教唆した点は刑法六〇条、六一条一項、有線電気通信法二一条に、通話料金課金業務妨害を教唆した点は刑法六〇条、六一条一項、二三三条、罰金等臨時措置法三条一項一号に該当するところ、右は教唆行為ごとに一個の行為で2及び8については四個、5については八個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により同表(一)記載2の罪については一罪として罪及び犯情の最も重い(1)の有線電気通信法違反教唆の罪の刑で、同5の罪については一罪として罪及び犯情の最も重い(1)の有線電気通信法違反教唆の罪の刑で、同8の罪については一罪として罪及び犯情の最も重い(2)の有線電気通信法違反教唆の罪の刑で処断することとし、被告人両名の判示第三の別紙一覧表(二)記載1、3及び5ないし10の所為はいずれも通信妨害を幇助した点は刑法六〇条、六二条一項、有線電気通信法二一条に、通話料金課金業務妨害を幇助した点は刑法六〇条、六二条一項、二三三条、罰金等臨時措置法三条一項一号に該当するところ、右はそれぞれ一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条前段、一〇条によりいずれも一罪として重い有線電気通信法違反幇助の罪の刑で処断することとし、同表(二)記載2及び4の所為は、「マジックホン」を取り付けた電話回線ごとに、通信妨害を幇助した点は刑法六〇条、六二条一項、有線電気通信法二一条に、通話料金課金業務妨害を幇助した点は刑法六〇条、六二条一項、二三三条、罰金等臨時措置法三条一項一号に該当するところ、右は幇助行為ごとに一個の行為で2については一二個、4については六個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により同表(二)記載2の罪については一罪として罪及び犯情の最も重い(1)の有線電気通信法違反幇助の罪の刑で、同4の罪については一罪として罪及び犯情の最も重い(〇一一)二三一局二九一八番の電話回線についての有線電気通信法違反幇助の罪の刑で処断することとし、各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、判示第二の別紙一覧表(二)記載1ないし10の各罪はいずれも従犯であるから刑法六三条、六八条三号により法律上の減軽をし、被告人丸山につき判示第一、第二の別紙一覧表(一)記載1ないし19及び第三の同(二)記載1ないし10の各罪は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により罪及び犯情の最も重い判示第一の(〇二六八八)二局六六七二番の電話回線についての罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人丸山を懲役二年に処することとし、被告人竹田につき判示第二の別紙一覧表(一)記載1ないし19及び第三の同(二)記載1ないし10の各罪は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により罪及び犯情の最も重い判示第二の別紙一覧表(一)記載5の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人竹田を懲役一年六月に処することとし、情況により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から被告人丸山に対し五年間、被告人竹田に対し三年間、右の各刑の執行を猶予し、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により被告人両名に連帯して負担させることとする。
(弁護人の無罪の主張に対する判断)
一有線電気通信法違反の点について
弁護人は、電話の通話システムと通話料金算出のための度数登算システム(以下、度数登算システムという。)とは全く別個のシステムであり、本件「マジックホン」は電話の通話を妨げるものではなく、単に度数登算システムの作動を妨害する機能を有する機器に過ぎないところ、度数登算システムにおいては、受信側の電話機が応答したことを発信側交換機内の発信側電話機に対応する課金装置へ伝達する方法として電流のいわゆる極性反転が用いられているが、そこでは有線電気通信法二条一項にいう「符号」の要件と解される「意思、感情、事実などを相手に認識できる形、音、光などの組合わせにより表現したもの」が存在せず、受信側電話機の「フックスイッチ」の開閉自体は符号とは解されないこと、また度数登算システムの送信側(受信側電話機)には電気信号に変換される符号などが存在せず、受信側(発信側電話機に対応する電話交換機内の課金装置)でこれをもとの符号などに再現することもなく、結局、同条項にいう符号などを「送る」及び「受ける」に該当する事実がないことを理由に、度数登算システムは同法にいう有線電気通信に該当せず、したがつて本件「マジックホン」の設置、使用は同法二一条の構成要件に該当しない旨主張するので、まずこの点について検討することとする。
1 度数登算システムの基本原理と「マジックホン」の機能
(一) 電話の通話システムと度数登算システムは、その細部においては電話交換機の種類によつて若干の相違があるものの、その基本原理は以下のとおりである。
すなわち、発信側が送受話器を上げてダイヤルを回すと、その電話回線を通して発信側の電話交換機、さらに受信側の電話交換機を経て受信側の電話回線及び電話機が選定され、その際、発信側と選定された受信側との距離などによつて定められた通話料金に対応する「課金パルス」が供給されるよう準備される。すると受信側電話機と受信側電話交換機との間に電話回線を通して呼出信号回路が形成され、受信側電話機のベルが鳴動する。次に受信側が送受話器を上げると、その電話機内の「フックスイッチ」が閉じ、これによつて呼出信号回路が受信側電話機から切り離されるとともに、受信側電話機と発信側電話機との間に、電話回線及びそれぞれの電話交換機を通して通話回路が形成され、受信側電話機のベルが止まり、通話可能になる。通話回路が形成されると、受信側電話交換機の中の「Dリレー」が作動し、これにより受信側電話交換機から発信側を通して流れていた直流電流の流れの方向が逆転(極性反転)する。この極性反転は、電話回線、リレーなどを通して順次発進側に伝達されて、発信側の電話交換機及び電話機まで伝達される。発信側電話交換機までの右の極性反転が伝達されると、同電話交換機内の発信側電話機と接続している課金装置の一部である応答検出回路により受信側が応答したことを検出し、前記のとおり準備されていた通話料金に対応する「課金パルス」が発出され、通話が行われている間継続して度数計が作動し、度数登算が行われる。通話が終わり受信側が送受話器を置くと、「フックスイッチ」が開き、通話回路の形成が解かれ、「Dリレー」の作動が停止し、反転していた極性は再反転して元に戻り、これによつて「課金パルス」の供給が停止され、度数計が停止する。そして、右の度数登算に基づいて発信側の通話料金を計算しその料金が徴収される。なお、右のように受信側電話機内の「フックスイッチ」が閉じることによつて極性反転が生じ、発信側電話機に接続した電話交換機内の課金装置に受信側電話機が応答した事実を伝達し度数登算開始の指示をするわけであるが、この「フックスイッチ」が閉じることによつて発生する信号を、以下、応答信号ということとする。
(二) 本件「マジックホン」は、機種によりその構造に差異はあるものの、その基本的な機能は、受信側の電話回線に接続して使用され、受信側電話機と発信側電話機の間に形成された通話回路を通して伝達される通話は妨害せずに、極性反転を生じさせる受信側電話交換機内の「Dリレー」を作動させないことにより、受信側電話機から送出された応答信号が受信側電話交換機からさらに発信側へと伝達されることを妨害するという機能を有するものであつて、その結果、通話はできるにもかかわらず度数計を作動させないので、通話料金が無料になるというものである。
以上の電話の通話システムと度数登算システムの基本原理及び「マジックホン」の機能に関する基本的な事実関係については、被告人、弁護人ともこれを認めており、内山登の証言及び同人作成の鑑定書など関係各証拠によつて明らかである。
2 そこで、応答信号が有線電気通信法二条一項にいう「有線電気通信」に該当するか否かについて検討する。
(一) 公社の電話回線が同法二条二項の「有線電気通信設備」に該当することはいうまでもなく、また応答信号が同条一項にいう「有線電気通信」の要件のうい、「送信の場所と受信の場所との間」の、電話回線、電話交換などの「線条その他の導体」を「利用して、電磁的方式により」、「送り」、「伝え」、「受ける」との要件を充足することは明らかである。
そこで問題は、応答信号が同条項にいう「符号」に該当するか否かであるが、通信としての符号はこれを「送り」、「伝え」、「受ける」ことによつて、伝達しようとする意思、感情、事実などの情報が相手側に認識可能なものに表現されたことに意義があるのであるから、右の情報伝達機能を有する限り、形、音、光の組合わせに限定される必要はなく、その伝達される情報の内容によつては、スイッチの開閉、電流の極性反転などの電気信号も「符号」たりうるものと解すべきである。そうすると「符号」が電気信号である場合には、これをさらに電気信号に「変換」する必要がないことはいうまでもない。
これを本件についてみると、応答信号においては、受信側電話機の応答及び通話中との事実を、「フックスイッチ」が閉じることによつて「Dリレー」が作動して極性反転が行われ、これが順次発進側に伝達されて、発信側電話交換機で検出され、度数計を作動させることにより、度数計の登算という相手側に認識可能な形で再現されているのである。したがつて応答信号は、それ自体前述したように電気信号としての「符号」たりうるものということができる。
(二) ところで、有線電気通信法は一九条、二五条ないし二七条において「信号」について規定し、「信号」については同法二一条の保護を与えていないことから、「信号」と「通信」との区別が問題となる。「信号」とは、一般には限定された意思または事実を単純に伝達して他人の注意を喚起する程度のものをいうと解され、異常通報装置などがその例であるとされているが、「通信」も「信号」も、線条その他の導体を利用して電磁的方式により意思、事実などの情報を伝達する方法であるということでは共通するところがあり、「信号」と「通信」との限界を厳密に画することは不可能である。結局、個々の場合において両者の区別は、同法の目的との関連において合目的的に解釈するほかないこととなる。
そこで右の点についてさらに検討を進めると、同法二一条は、有線電気通信の安全、円滑を保護するため、これを妨害する行為を処罰するものであり、右の安全と円滑を確保するためには、有線電気通信事業の効率的、経済的経営の確保が重大な関わりを有することはいうまでもない。ところで公社は、国民に電話による通話の利便を提供するとともに、それに伴う適正な通話料金を微収することによつてその経営を維持しているのであるから、料金徴収の前提となる通話料金計算のための度数登算は、公社の有線電気通信事業の経営の基礎であるということができる。そして、井上皎及び内山登の各証言によれば、公社は、有線電気通信設備を設置管理して電話利用者相互間の電話通話の通信を行うとともに、「設備維持運用上の通信」と称する電話通話などを成立させるための電話交換機、電話機など設備相互間の通信手順に必要な信号伝達の通信も行つており、応答信号も右「設備維持運用上の通信」の一つとしての機能を与えられていることが認められる。
そうすると応答信号は、受信側電話機の応答とその継続(通話中)という限定された事実を伝達するものではあるが、異常通報装置のように単純にこれを伝達して相手の注意を喚起する程度のものではなく、応答と通話時間という情報を伝達して度数計の登算という形で再現され、しかもこの度数登算は公社の有線電気通信業務を遂行するうえで重要不可欠な役割を有すること、「符号」としての要件にも欠けるところはないことなどを総合すると、同法二条一項の「有線電気通信」に該当するものと解すべきであつて、弁護人の主張する見解に左袒することはできない。
二偽計業務妨害の点について
さらに弁護人は、「マジックホン」の設置、使用は有償で提供されている役務を無償で取得する行為ないしは自動機器の不正利用行為にすぎず、それ以上の何らの業務妨害行為たる意味を持ちえないのであるから、偽計業務妨害罪の構成要件に該当しないと主張する。そこで検討するに、「マジックホン」の設置、使用は通話料金の不正免脱を目的としてなされたものであるが、その方法は前述したとおり、「マジックホン」の特殊機能により、度数計の作動を阻碍し、公社の電話通信の利用の把握とその対価である通話料金の計算、課金を不可能ならしめたというものであるところ、偽計業務妨害罪における業務とは人が社会上の地位において継続的に行う事務をいうものであつて、右の電話通信利用の把握及び通話料金の計算、課金事務が公社の業務として偽計業務妨害罪の保護の対象となる業務であることは明らかであり、したがつてこれを「マジックホン」の設置、使用によつて不可能ならしめた所為が偽計業務妨害罪の構成要件に該当することはいうまでもなく、この点について弁護人の主張する見解は独自のもので採用するに由ないものである。
(量刑の理由)
「マジックホン」は、現代社会において必要不可欠の公器である公社の電話を専ら不正使用するための機能のみを有する装置であつて、全国各地で多発したいわゆる「マジックホン」事件は、公衆電気通信事業の合理的かつ能率的経営の体制を確立し、公衆電気通信設備の整備及び拡充を促進し、並びに電気通信による国民の利便を確保することによつて、公共の福祉を増進することを目的として設立された公社の経営の基礎を脅やかす危険性を有していたものである。しかも被告人丸山は電気の専門的知識を悪用して「マジックホン」を開発した張本人であるとともに、その製造販売元であつた「エレクトロニクス社」の経営責任者であり、被告人竹田は昭和五五年二月四日から「エレクトロニクス社」の営業課長として販売の責任者であつたものであり、いずれも右の全国的な「マジックホン」事件の最も中心的な役割を果たしていたものであつて、本件の社会に与えた影響なども考えると、その刑事責任は重大であるといわねばならない。また被告人らは、明らかに反社会的機能を有する「マジックホン」を顧客に対し確たる根拠もないのに「法律には触れないから大丈夫だ。」などと申し向けて半ば公然と販売していたものであり、その販売台数も昭和五四年一一月から昭和五五年一一月一〇日までの間に(被告人竹田は同年二月四日以降関与)約一、六五〇台余りで売上金額も約八、〇〇〇万円にも上つているのであつて、公社に多額の損害を与える一方で、自己の所属する「エレクトロニクス社」に多額の利益を得させていたものであり、その犯情は悪質である。
しかしながら、被告人丸山は当初から通話料金を無料化する装置を開発しようとしたのではなく、他の商品を研究開発していた際に偶然「マジックホン」の開発を得たものであり、また「マジックホン」が法律に違反するのではないかとの考えを持ちながらも、弁護士などに相談しても明確な回答を得られなかつたために、あるいは法律に違反しないのではないかとの気持ちもあつて「マジックホン」を販売していたものであること、被告人竹田は「エレクトロニクス社」の営業を任されたものの、売上成績が思いのほか悪かつたため、「マジックホン」の違法性を承知しながら、これを技術的宣伝に利用しようとの考えから、その販売に関与したところ、多くの注文があり、販売を続ける結果となつたものであること、被告人らはこれまで前科もなく正業に従事してきたこと、「マジックホン」の製造販売は昭和五五年一一月一〇日をもつて中止しており、いずれも当公判廷において本件について反省している旨を述べていること、また被告人竹田は被告人丸山の指示により「エレクトロニクス社」の方針に従つて「マジックホン」を販売したものであつて、本件における立場は被告人丸山に比して従属的であることなど、被告人らにとつてそれぞれ有利な情状も認められるので、被告人両名に対し、それぞれ刑の執行を猶予することとした次第である。
よつて主文のとおり判決する。
(小林宣雄 北澤貞男 岡本岳)
別紙一覧表<省略>